和俗童子訓51
貝原益軒著『和俗童子訓』51
ことしの春より、真と草との文字を書きならはしむ。はじめより風体正しき能書を学はしむべし。手跡つたなく、風体あしきを手本としてならへば、あしき事くせとなり、後に風体よき能書をならへどもうつ(移)らず。はじめは真草ともに、大字を書ならはしむべし。はじめより小字をかけば、手すくみてはたらかず。又此年よりはやく文字をよみならはせしらしむべし。孝経、小学、四書などの類の、文句長きむづかしきものは、はじめよりよみがたく、おぼえがたく、たいくつ(退屈)し、学問をきらふ心いできてあしく、まづ文句みじかくして、よみやすく、おぼえやきものをよませ、そらにおぼえさすべし。
【通釈】
今年(八歳)の春より、楷書と草書との文字を書き習わせる。初めより端正な能書を学ばせよ。筆跡が拙く、書体が悪いのを手本として習えば、悪筆がくせとなり、後から端正な能書を習っても上手く書くことはできない。
最初は楷書草書ともに、大字を書き習わせるがよい。初めより小字を書けば、手がすくんでうまく働かない。
また、この年より早く文字を読み習わせること。孝経、小学、四書(ししょ)などの類の、文句長くて難しいものは初めから読みにくく、覚えにくい。これでは退屈し、学問を嫌う心が生じてよくない。まず文句が短くて読みやすく、覚えやすいものを読ませ、暗記させること。
【語釈】
●孝経 儒家の経書(けいしょ)十三経(じゅうさんぎょう)のひとつ。 曽子(そうし)の門人が孔子の言動をしるしたとされる。孝の大体を述べ、つぎに天子、諸侯、卿大夫(けいたいふ)、士、庶人の孝を細説し、そして孝道の用を説く。 ●小学 1187年に朱熹が劉子澄に編纂させた儒学の初等教科書の題名。 ●四書 『大学』『論語』『孟子』『中庸』の4種類の書物をいう。中国の儒学者程子(ていし)が儒教の基本経典として重んじた『論語』『孟子』に,朱子が『礼記』のなかから『大学』『中庸』の2篇を選び加え,儒学枢要の書とした。これにより形骸化していた五経の学問に代り,学問の重点は四書に移った。日本でも朱子学が江戸時代以降盛んになり,それを学ぶうえでの必読書とされた。
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