和俗童子訓36

貝原益軒著『和俗童子訓』36

いにしへ、もろこしにて、小児十歳なれば、外に出して昼夜師に随ひ、学問所にをらしめ、常に父母の家にをかず。古人、此法深き意あり。いかんとなれば、小児、つねに父母のそばに居て、恩愛にならへば、愛をたのみ、恩になれて、日々にあまえ、きずいになり、艱苦のつとめなくして、いたづらに時日をすごし、教行はれず。且、孝弟の道を、父兄のをしゆるは、わが身によくつかへよ、とのすすめなれば、同じくは、師より教えて行はしむるがよろし。故に父母のそばをはなれ、昼夜外に出て、をしえを師にうけしめ、学友に交はらしむれば、おごり、おこたりなく、知慧日々に明らかに、行儀日々に正しくなる。是古人の子をそだつるに、内におらしめずして、外にいたせし意なり。


【通釈】

昔、中国で、小児が十歳になると、外に出して昼夜師に随い、学問所に居させて、常に父母の家には置かなかった。古人のこの法には深い意味がある。どういうことかといえば、小児というものは常に父母のそばに居て、恩愛に慣れてしまい、愛を欲しがり、恩に慣れて、日々甘え、感情のままにふるまい、艱苦の経験がなく、無駄に時日を過ごし、教えは行なわれない。かつ、孝悌の道を父兄が教えるのは、わが身によく仕えよということであるから、同じことは、師より教えて行なわせるようにするのがよい。

だから父母のそばをはなれ、昼夜外に出て、師より教えを受けさせ、学友に交わらせれば、奢りや怠けがなく、知恵が日々明らかに理解し、行儀が日々に正しくなる。これが古人が子を育てるにあたり、内に置かずに外に出す理由である。

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