和俗童子訓34

貝原益軒著『和俗童子訓』34

師の教をうけ、学問する法は、善をこのみ、行なふを以、常に志とすべし。学問するは、善を行はんがため也。人の善を見ては、わが身に取りて行なひ、人の義ある事をきかば、心にむべなりと思ひかんじて、行なふべし。善を見、義をききても、わが心に感ぜず、身に取用て行なはずば、むげに志なく、ちからなし、と云べし、わが学問と才力と、すぐれたりとも、人にほこりて自慢すべからず。言にあらはしてほこるは、云に及ばず、心にも、きざすべからず。志は、いつはり邪なく、まことありてただしかるべし。心の内は、おほひくもりなく、うらおもてなく、純一にて、青天白日の如くなるべし。一点も、心の内に邪悪をかくして、うらおもてあるべからず。志正しきは、万事の本なり。身に行なふ事は、正直にして道をまげず、邪にゆがめる事を、行なふべからず。外に出てあそび居るには、必つねのしかるべき親戚・朋友の所をさだめて、みだりに、あなたこなた、用なき所にゆかず。其友としてまじはる所の人をゑらびて、善人に、つねにちかづき、良友にまじはるべし。善人に交れば、其善を見ならひ、善言をきき、わが過をききて、益おほし。悪友にまじはれば、はやく悪にうつりやすし。必友をゑらびて、かりそめにも悪友に交はるべからず。おそるべし。朝にはやくおきておやにつかへ、事をつとむべし。朝ゐしておこたるべからず。およそ、人のつとめは、あしたをはじめとす。朝居する人は、必おこたりて、万事行なはれず。夜にいたりても、事をつとむべし。はやくいねて、事をおこたるも、用なきに、夜ふくるまでいねがてにて、時をあやまるも、ともに子弟の法にそむけり。衣服をき、帯をしたるかたちもととのひて、威儀正しかるべし。放逸たるべからず。朝ごとに、きのふいまだ知らざるさきを、師にまなびそへ、暮ごとに、朝まなべる事を、かさねがさね、つとめておこたるべからず。心をあらく、おほやうにせず、つづまやかにすこしにすべし。かくの如くに、日々につとめておこたらざるを、学間の法とす。


【通釈】

師の教を受け、学問をする法は、常に善を好み実践することを志とするように。学問をするのは、善を行なうためである。

人の善を見ては、わが身に取り入れて行い、人の義ある行為を聞けば、心に納得感心して、同じことを行なう。善を見、義を聞いても、わが心に感ぜず、身に取り入れて行うことがなければ、全然志がなく、なんの力もないといえよう。

わが学問と才力とが優れていても、人に誇って自慢してはならない。言葉に表わして誇るのは言うに及ばず、心にも思ってはならない。

志は、偽り邪心なく、誠があってこそ正しいものとなる。心の内は一点の曇りもなく、裏表なく、純一で、青天白日のようでありたい。一点でも心の内に邪悪を隠して、裏表があってはならぬ。

志が正しいのは、万事の本である。それを実践する時は、正直で道をまげず、邪なことに歪め行ってはならない。

外に出て遊ぶにあたっては、必ずしかるべき親戚・朋友の所を決めて、みだりにあちこち用もない所に行かないようにする。友として交わる人を選び、常に善人に近づき、良友に交わるべき。善人に交われば、その善を見習い、善言を聞き、わが過ちを聞くことから、益が多い。悪友に交わると、早く悪に移ってしまう。必ず友を選び、かりそめにも悪友に交わってはならぬ。恐るべきことである。

朝早く起きて親に仕え、務めに励むこと。朝寝して怠けてはならない。

およそ人の務めは、朝がを始めとする。朝寝をする人は、必ず怠けてなにもしない。夜になっても、なお務めに精を出すべき。早く寝て怠けるのも、用もないのに夜更けまで起きて時間を無駄にするのも、ともに子弟の法に背くことである。

常に衣服を着て帯を締めて姿を整え、威儀を正しくすること。だらしないのはいけない。

毎朝、昨日教わってまだ理解できないことを師に聞いて学び、夕方には、朝学んだ事を繰り返し復習して怠ってはいけない。

心が粗野で鷹揚にせず、慎ましくするようにする。

以上のように、日々務めて怠らないのが、学間の法である。

───

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。