和俗童子訓29

貝原益軒著『和俗童子訓』29

小児の時は、必あしきくせ、あしきならはしなどあるを、みづからあしき事としらば、あらためて行なふべからず。又かかるあしき事を、人のいさめにあひ、いましめられば、よろこんではやくあらため、後年まで、ながくその事をなすべからず。一たび人のいさめたる事は、ながく心にとどめて、わするべからず。人のいさめをうけながら、あらためず、やがてわするゝは、守なしと云べし。守なき人は、よき人となりがたし。いはんや、人のいさめをきらひ、いかりうらむる人は、さらなり。人のいさめをきかば、よろこんでうくべし。必いかりそむくべからず。いさめをききて、もしよろこんでうくる人は、善人也、よく家をたもつ。いさめをきらひ、ふせぐ人は、必家をやぶる。是善悪のわかるる所なり。いさむる事、理たがひたりとも、そむきて、あらそふべからず。いさめをききていかれば、かさねて其人、いさめをいはず。凡いさめをきくは、大に身の益なり。いさめをききて、よろこんでうけ、わが過を改むるは、善、これより大なるはなし。人の悪事多けれど、いさめをきらふは、悪のいと大なる也。わが身のあしき事をしらせ、あやまちをいさむる人は、たうとみ、したしむべし。わづかなるくひものなどおくるをだに、よろこぶならひなり。いはんや、いさめを云ふ人は、甚悦びたうとぶべし。


【通釈】

小児の時は、必ず悪いくせや悪い習慣があるものだが、自分でそれを悪いことと自覚したならば、以後はしないように改めさせる。また、かかる悪いことを、人から注意されたり戒められたりした場合、喜んで早く改め、後年まで長く行ってはならないようにする。一たび人から注意や忠告された事は長く心にとどめて、忘れてはならない。人から注意されながら改めず、やがて忘れてしまうのは、守りなといえよう。守りなき人は、善い人とはなり難い。ましてや、人の注意を嫌い、逆に怒ったり怨んだりする人はなおさらである。

人から注意されたなら、喜んで受け入れるべき。決して怒ったり背いたりしてはならない。注意を聞き、喜んで受け入れる人は、善人であり、よく家を保つことができる。注意を嫌い、聞く耳を持たない人は、必ず家を滅ぼす。これが善悪の分かれ道である。

注意することが道理に外れることであっても、反目して争ってはならない。注意に対して怒れば、もうその人は重ねて注意することはしない。

およそ諫言を聞くことは、大にわが身の利益である。諫めを聞き、喜んで受け入れ、わが過ちを改めるのは、この上ない善である。悪事が多いのに、諫めを嫌うのは、悪の大なるものである。わが身の悪い事を教え、過ちを諫めてくれる人は、貴んで親しくすべきである。些少なる食べ物を贈っても喜ばれるのだから、ましてや、諫言してくれる人は、甚だ悦び貴ぶべきである。

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