和俗童子訓25
貝原益軒著『和俗童子訓』25
巻之二 総論下
いとけなき時より、孝弟の道を、もっばらにをしゆべし。孝弟を行ふには、愛敬の心法をしるべし。愛とは、人をいつくしみ、いとをしみて、おろそかならざる也。敬とは、人をうやまひて、あなどらざる也。父母をいつくしみ、うやまふは孝也。是愛敬の第一の事也。次に兄をいつくしみ、うやまふは弟なり。又、をぢ、をばなど、およそ年長ぜる人をいつくしみ、うやまふも弟たり。次にわが弟、いとこ、おひなど、又めしつかふ下部など、其ほどにしたがひて、いつくしむべし。いやしき者をも、あなどり、おろそかにすべからず。各其位にしたがひて、愛敬すべし。およそ愛敬二の心は、人倫に対する道なり。人にまじはるに、わが心と顔色をやはらげ、人をあなどらざるは、是善を行なふはじめなり。わが気にまかせて、位におごり、才にほこり、人をあなどり、無礼をなすべからず。
【通釈】
巻之二 総論下
幼い時より、孝悌の道を中心に教えるべき。孝悌を行うには、愛敬の心を知る必要がある。愛とは、人をいつくしみ、いとおしんで、おろそかにしないこと。敬とは、人をうやまってあなどらないこと。父母をいつくしみ敬うのは孝であり、愛敬の第一である。次に兄をいつくしみ敬うは悌である。また、おじ、おばなど、すべて年長の人をいつくしみ敬うのも悌である。
次にわが弟、いとこ、甥など、また召し使える下の者など、それぞれの分に従っていつくしむべき。身分低い者に対しても、あなどったり粗略にしてはならない。それぞれその位に応じて愛敬すべきである。
およそ愛と敬の二つの心は、人倫に対する道である。人に交わるにあたり、わが心と顔色を和らげて、人をあなどらないのは、善を行なう基本である。わが気分次第で、位に驕り、才を誇り、人をあなどって無礼を働いてはならない。
年若くして師のもとで物を習うにあたり、朝は師に学び、昼は朝学んだことを復習・実践し、夜にはさらに重ねて習い、夜寝る時に、今日一日の自分の言動を省みて、過ちがあれば悔いて、今後の戒めとすべし。
【語釈】●孝弟 孝悌。親孝行で兄弟仲のよいこと。
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