和俗童子訓23
貝原益軒著『和俗童子訓』23
【通釈】
いやしき者、わが身ひとつおさむるだに、学問なくて、みづからのたくみにはなりがたし。いはんや富貴の人はおほくの民をおさむる職分、大きにひろければ、幼き時より、師に近づき、聖人の書をよみ、古の道を学んで、身をおさめ、人を治むる理をしらずんばあるべからず。いかに才力を生れ付りとも、いにしへのひじりの道をまなばずして、わが生れ付の心を以、みだりに人をつかひ、民をつかさどれば、人民をおさむる心法をも、其道、其法をもしらで、あやまり多くして、人をそこなひて、道にそむき、天官をむなしくして職分をうしなふ。しかれば、位高く禄おもき人の子は、ことさら少年より、はやく心をへりくだり、師をたつとびて、学ばずんばあるべからず。
【語釈】
身分低い者は、わが身ひとつを修めるにも学問がなくては自分の思うようにはなり難い。ましてや、富貴の人は多くの民を治める職分が大きく広いのであるから、幼い時より師につき、聖人の書を読み、古の道を学んで身を修め、人を治める道理を知らなくてはならない。いかに生まれつき才能があったとしても、古の聖人の道を学ばずして、自分の生まれつきの心だけでみだりに人を使役し、民を支配すれば、人民を治める心構えも、その道、その法も知らないから誤りが多く、人をそこない、道に背き、天から与えられた官職を台無しにして職分を失うこととなる。されば、位高く禄重い人の子は、ことさら少年より早く心をへりくだり、師を尊んで、学問をしなければならない。
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