和俗童子訓19
貝原益軒著『和俗童子訓』19
小児に学問をおしゆるに、はじめより、人品よき師を求むべし。才学ありとも、あしき師に、したがはしむべからず。師は、小児の見ならふ所の手本なればなり。凡学問は、其学術をゑらぶ事を、むねとすべし。学のすぢあしければ、かへりて性をそこなふ。一生つとめても、よき道にすすまず。一たびあしきすぢをまなべば、後によき術をききても、うつらず。又、才力ありて高慢なる人、すぢわるき学問をすれば、善にうつらざるのみならず、必邪智を長じて、人品弥あしくなるもの也。かやうの人には、只、小学の法、謙譲にして。自是とせざるを以、教をうくるの基となさしめて、温和・慈愛を心法とし、孝弟、忠信、礼義、廉恥の行をおしえて、高慢の気をくじくべし。其外、人によりて、多才はかへりて、其心をそこなひ、凶悪をますものなり。まづ謙譲をおしえて、後に、才学をならはしむべし。
【通釈】
小児に学問を教えるには、まずはじめに、人品のよい師を求めること。たとえ学才があろうとも、心悪しき師につかせてはならない。師とは、小児が見習う手本となるからである。
およそ学問は、その学術を選ぶ事を旨とすべき。学の筋が悪ければ、却って性を害う。これでは一生つとめても、よい道には進むことがない。一たび悪い筋を学べば、後でよい術を聞いても、移ることはできない。
また、才能があって高慢なる人が、筋の悪い学問をすれば、善に移らないだけでなく、必ず邪智を長じさせて、人品がいよいよ悪くなるものである。
このような人には、ひとえに小学の法により、謙譲にして、自分が正しいというひとりよがりをさせないことにより、教えを受ける者の基本的態度とさせて、温和・慈愛を心の法とし、孝弟、忠信、礼義、廉恥の行ないを教えて、高慢な気をくじくこと。
その他、人によっては多才は却ってその心を害い、凶悪さを増すものである。まず謙譲を教えて、後に学問を習わせるのがよい。
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