和俗童子訓15
貝原益軒著『和俗童子訓』15
小児の時、紙鳶をあげ、破魔弓を射、狛をまはし、毬打の玉をうち、てまりをつき、端午に旗人形をたつる。女児の羽子をつき、あまがつをいだき、ひいなをもてあそぶの類は、只いとけなき時、このめるはかなきたはふれにて、年やうやく長じて後は、必すたるものなれば、心術におゐて害なし。大やう其このみにまかすべし。されど、ついゑ多く、かざりすごし、このみ過さば、いましむべし。ばくちににたるあそびは、なさしむべからず。小児のあそびをこのむは、つねの情なり。道に害なきわざならば、あながちにおさえかがめて、其気を屈せしむべからず。只、後にすたらざるあそび・このみは打まかせがたし。
【通釈】
小児の時、紙鳶(たこ)をあげ、破魔弓(はまゆみ)を射、狛(こま)をまはし、毬打(ぎちょう)の玉をうち、てまりをつき、端午に旗人形をたてる。女児の羽子(はね)をつき、あまがつ(天児)をだき、ひな(雛)をもて遊ぶのは、幼い時に好む他愛のないもので、年が長じて後は、必ずやめてしまうものであるから、心術において害はない。だからその子の好みにまかせてよい。しかし、金がかかり、華美になり、それに溺れてしまうようなのは戒めなければならない。ばくちに似た遊びはさせてはならない。
小児が遊びを好むのは、当たり前の情である。道に害がないものならば、無理に抑え込んで、気持ちを曲げさせてはならない。ただ、成長してもなおやめない遊びや嗜好はさせてはならない。
【語釈】●毬打 騎馬または徒歩で二組に分かれ、毬杖(ぎっちょう)で毬を打ち、自分の組の毬門に早く入れた方を勝ちとする遊戯。打毬(だきゅう)。
●あまがつ 枕元に置くお守りの人形。幼児の災難を除くために,形代 (かたしろ) として凶事を移し負わせるための木偶 (でく) 人形。 平安時代に神事の祓に用いられた。 『源氏物語』の「薄雲」「若菜上」などに天児のことが記されている。
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