和俗童子訓14

貝原益軒著『和俗童子訓』14

小児の時より、年長ずるにいたるまで、父となり、かしづきとなる者、子のすきこのむ事ごとに心をつけて、ゑらびて、このみにまかすべからず。このむ所に打まかせで、よしあしをゑらばざれば、多くは悪きすぢに入て、後はくせとなる。一たびあしき方にうつりては、とりかへして、よき方にうつらず、いましめてもあらたまらず、一生の間、やみがたし。故にいまだそまざる内に、早くいましむべし。ゆだんして、其子のこのむ所にまかすべからず。ことに高家の子は、物ごとゆたかに、自由なるゆへに、このむかたに心はやくうつりやすくして、おぼれやすし。はやくいましめざれば、後にそみ入ては、いさめがたく、立かへりがたし。又、あしからざる事も、すぐれてふかくこのむ事は、必害となる。故に子をそだつるには、ゆだんして其このみにまかすべからず。早くいましむべし。おろそかにすべからず。予するを先とするは此故なり。


【通釈】

小児の時より大人になるまで、父となる者から、つき従う役目となる者まで、その子が何を好きこのむかを注意し、よく選んて、好みのままにしてはならない。好むがままにさせて、良し悪しを選別しなければ、多くは悪いものを好み、後までくせとなってしまうものである。

ひとたび悪い方に移ってしまうと、なんとかして良い方に向かわせようとしても移ることはできず、戒めても改まらず、一生の間、止めることができない。だから、まだ悪に染まらないうちに、早く戒めるべきである。油断して、その子の好むがままにさせてはならない。

とりわけ高位の家の子は、衣食豊かで、思いのまま自由になることから、好きなことにばかり心が移り、それに惑溺しやすい。早く戒めないと、心に染み入った後では諫めることが難しく、善に立ち返ることも難しい。

また、悪くない事でも、あまり深く好むのは、必ず害となる。だから子を育てるには、油断してその子の好みに任せてはならない。早くに戒めるべき。おろそかにしてはならない。前もって防ぐのがよいのはこのためである。

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