和俗童子訓

貝原益軒著『和俗童子訓』6

小児をそだつるには、さきにも聞こえつるやうに、先乳母、かしづきしたがふ者を、ゑらぶべし。心おだやかに、邪なく、つつしみて言すくなきをよしとす。わるがしこく、くちきき、いつはりをいひ、ことばおほく、心邪にしてひがみ、気たけく、ほしゐままにふるまひ、酩酊をこのむをあししとす。凡小児は智なし、心もことばも、万のふるまひも、皆其かしづきしたがふ者を、見ならひ、聞ならひて、かれに似するものなり。乳母、かしづぎしたがふ人、あしければ、そだつる子、それに似てあしくなる。故に、其人をよくゑらぶべし。貧賎なる家には、人をゑらぶ事かたしといへど、此心得あるべし。いはんや、位たかく禄とめる家をや。


【通釈】

小児を育てるには、先述したように、まず乳母や従者を厳選すべき。心おだやかで邪心がなく、慎み深くて口数が少ない者がよい。悪賢く、よくしゃべり、嘘をつき、言い訳が多く、心が曲ってひがみっぽく、気が強く、わがままに振る舞い、酒を好む者はよくない。

およそ小児はまだ智恵がかいから、心も言葉も、いろいろなしぐさや態度も、すべてつき従う者を見習い、聞き習って、従者に似て来るものである。乳母や従者が良くなければ、育つ子もそれに似て悪くなる。だから、人をよく選ぶことが大切である。貧賎な家では人を選ぶ事も難しいが、この心得は大切にしたい。ましてや、位が高く富裕な家はなおさらである。

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