和俗童子訓5

貝原益軒著『和俗童子訓』5

凡小児をそだつるに、初生より愛を過すべからず。愛すぐれば、かへりて、児をそこなふ。衣服をあつくし、乳食にあかしむれば、必病すくなし。富貴の家の子は、病おほくして身よはく、貧賎の家の子は、病すくなくして身つよきを以、其故をしるべし。小児の初生には、父母のふるき衣を改めぬひて、きせしむべし。きぬの新しくして温なるは、熱を生じて病となる。古語に、「凡小児をやすからしむるには、三分の餌と寒とをおぶべし」、といへり。三分とは、十の内三分を云。此こころは、すこしはうやし、少はひやすがよし、となり。最古人、小児をたもつの良法也。世俗これをしらず、小児に乳食を、おほくおたへてあかしめ、甘き物、くだ物を、多くくはしむる故に、気ふさがりて、必脾胃をやぶり、病を生ず。小児の不慮に死する者は、多くはこれによれり。又、衣をあつくして、あたため過せば、熱を生じ、元気をもらすゆへ、筋骨ゆるまりて、身よはし。皆是病を生ずるの本也。からも、やまとも、昔より、童子の衣のわきをあくるは、童子は気さかんにして、熱おほきゆへ、熱をもらさんがため也。是を以、小児は、あたためすごすがあしき事をしるべし。天気よき時は、おりおり外にいだして風・日にあたらしむべし。かくのごとくすれば、はだえ堅く、血気づよく成て、風寒に感ぜず。風・日にあたらざれば、はだへもろくして、風寒に感じやすく、わづらひおほし。小児のやしなひの法を、かしづきそだつるものに、よく云きかせ、をしえて心得しむべし。


【通釈】

およそ小児を育てるには、生まれてからすぐに過度な愛をかけてはならない。愛をかけすぎると、却って子の精神をゆがめてしまう。寒いからといって厚着をさせ、乳食をたくさん与えると、必ず病を多く生じる。衣を薄くし、食を少なくすれば、病も少ない。富貴の家の子は病多くして身は弱く、貧賎の家の子は病少なくして身は強い。これがその理由である。

小児が生まれたなら、父母の古い衣を改め縫って着せるのがよい。新しくて温かい衣は、熱を生じて病のもととなる。古語に、「およそ小児を安からしむるには、三分の餌と寒とをお(帯)ぶべし」、という。三分とは、十のうちの三分をいう。この意味は、少しは飢えさせ、少しは冷やすのがよいということ。これは古人が小児を健康に保つ良法とした教えである。

ところが、世間ではこれを知らず、小児に乳食を飽くまで与え、甘い物や果物を多く食べさせるために、気がふさがり、必ず脾胃を傷め、病を生ずる。小児が突然死するのは、多くはこれによる。

また、衣を厚くして温めすぎると、やがて熱を生じ、元気を漏らすために、筋骨が緩くなって身が弱まる。これらはみな病を生ずる原因である。

唐(から)も、大和も、昔より童子の衣の脇を開けるのは、童子は気が盛んで熱が多いことから、熱を発散させるためである。このように、小児は温めすぎるのはよくないことを知るべきである。

天気がよい時は、折々外に出して風や日にあたらせるべき。そうすれば、肌は引き締まり、血行がよくなって、風寒に負けることはない。風や日にあたらないと、肌はもろくなり、風寒に感じやすく、病気になりやすくなる。

小児の養育法を、かしづき育てる者によく言い聞かせ、教えて理解させるようにすべきである。

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