南留別志406

荻生徂徠著『南留別志』406

一 癩(らい)病を「かたゐ」といふ事は、山礪河帯の誓を、「しやみれかたゐ」とよみあやまりて誓ひたるべし。人の神祇に罪せられて、うけたる病と附会する人あり。かたゐ翁といふは、きたなき翁といふやうなり。されば、むかしよりいひし詞なるべし。


[語釈]

●癩 ハンセン病の古語。和語は「かたい」「かったい」と言った。癩菌 (らいきん) の感染によって起こる慢性細菌感染症。感染力は弱く、潜伏期は3年から20年にも及ぶため、かつては遺伝性と誤解されたこともあった。主に末梢神経が冒され、知覚麻痺・神経痛や皮膚症状のほか、脱毛、顔面や手指の変形などもみられる。特に顔面の変形から嫌われたり差別されることが多く、強制的に隔離されるなどさまざまな社会問題を引き起こした。徂徠が言うように、昔は神仏の罰により受けた病と理解されることもあった。 

●山礪河帯 永久に変わらないかたい誓約のこと。または、国が平和で栄え続けること。「山」は泰山、「礪」は砥石、「河」は黄河のことで、広い黄河が帯のように細くなっても、高い泰山がすりへって砥石のように平になっても、長く変わることがないという意味から。出典は『史記』の「高祖功臣侯者年表」

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