南留別志395

荻生徂徠著『南留別志』395

一   令(りょう)を見れば、古の葬には、皷角を用ひたり。『三代実録』には、方相の事あり、僧をば借らぬなり。


[語釈]

●令 律令の令。 

●皷角(こかく) 中国の少数民族チワン族の神話では、天地創造の老祖ブルオトーは天地と人間を生み出した後、天上に住んだ。子孫達の生活を見ることができるように、彼(ブルオトー)は壮族を高山の上に住まわせた。天に近くて観察しやすいため。初め、壮人の生活はかなり良い状態だった。人々は豊かな自然とともに安穏と暮らしていた。後に人数が多くなったので、ブルオトーは天を大きく高くし、地を広く厚くした。山は削って低くした。そうして天地は遠く離れるようになったのである。日月も星も照らすことができない死角が生まれた。時が過ぎて、それらの光の届かない場所には毒虫や悪獣や妖魔が生まれた。これらは昼はあまり活動せず、夜に動き出し人畜に被害をあたえた。人間が追うとまた光の死角に隠れるので、これらを退治することはできなかった。人々は風にこの状況をブルオトーに伝えてもらい、星を地上に下ろしてもらおうとした。星の死角で闇の角を照らすことができれば、毒虫悪獣妖魔も逃げることはできないからだ。ブルオトーが地上にやってきて、自分達で星を作ることになった。黒白黄金の三彩泥で形を作った。孔雀石を三日三晩熱して液体状にし、泥で作った型に流し込んだ。固まった物には刀矢・斧ミノ・魚モリ・農耕機織・狩猟・航海・遊び・占いなど様々な図案が描かれており、大きく輝く星もあった。大きな星の周囲を多くの小さな星が囲んでいる。しかしそれはなんという名前なのか。ブルオトーがそれを叩くと、『パオマンパオチ』(壮語で「保村保塞」の意)と大きな音がした。雷のような音である。闇に隠れていた毒虫妖魔らは驚いて逃げ出した。ブルオトーと人々は喜びに歌い舞った。ブルオトーはそれを『アラン』(「銅鼓」)と名づけて「地上の星であり、毒虫悪獣妖魔を殺し、村を守る」とした。またそれに描かれている図案は壮人が学ぶべきものである。それがあればお前達は幸せに暮らすことができる、と。人々はブルオトーに言われたとおりに、図案から生活に必要な物事を学び、妖魔を発見した時は銅鼓を叩いた。祭りのときにもそれを使った。村々がそれを真似て銅鼓はたくさん作られるようになった。空の星と同じように銅鼓が増えると人々の暮らしはより幸せになる。銅鼓というのは銅で作った大きな太鼓。地面と水平において上から叩くという形状で、普通の太古では革がはってある部分も銅でできているため、叩いたら銅鑼のような音がするのだと思われる。 

●方相 方相氏。もと中国周代の官名。宮中で、追儺 (ついな) のとき悪鬼を追い払う役。黄金四つ目の仮面をかぶり、黒い衣に朱の裳 (も) を着、矛と盾を持ち、内裏の4門を回って鬼を追い出した。

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